ザルツブルグ、深さと広さ

建築家、詩人、書店員、活動家、大学教授、振付師...。世界中の都市から集う、文化・創作活動の担い手80名の国際会議、ザルツブルグ・グローバル・セミナー(SGS)に参加しました。場所は池に臨む古城。

「塩の砦」を意味する町、ザルツブルグ。オーストリア中北部、モーツアルト生誕の地だそうです。街の中心から車で10分ほど郊外へ向かうと、1736年築の古城と池。それらを囲む7ヘクタールの敷地は、現在ホテルとなっています。映画サウンド・オブ・ミュージックが撮影された場所とのこと(あの映画は実話をもとにしていて、ここはモデルとなった家族が実際に住んでいた家でもあるそうです)。

一週間の合宿形式の会議で、何回かのレクチャーの講師役を務めました。僕は「森岡書店 銀座店」や「Message Soap, in time」という作品を通して、「深いけれどもオーディエンスの小さい取り組み」の話をしました。美しく、主観的なもの。ある特定の価値観を持った人たちの共感を誘うけど、リーチが少ないもの。これを、より多くの人に共感してもらうには。深さを失わずに、広さを獲得するには。普通深さと広さにはトレードオフがある。つまり、自分ひとりに向けて書かれた詩は、深く心に刺さるけど、あくまで自分にだけ価値があるものだし、多くの人に向けて公開されている映画は、自分自身とのひも付きや必然性が小さくなる。この両立という、いかにも難しそうなテーマについて考えていることを共有。

あるザルツブルグ出身のピアニストは、森岡書店の話を聞いたあと、こう言ってくれました。「広さを獲得するためには、薄めるのが直感的。でもむしろより深くしていくことで、広さを獲得できることもあるのね。一週間ずつ本を買えていく書店は、都度ちがった深さのものを世に放つ、ということね」。あるシドニー出身の作家は、Message Soapの話を聞いたあと、「手紙は、離れたときにむしろ近づくことのできる作法ね」と言ってくれました。

講演の後もそのオーディエンスと数日一緒に過ごせるというのはなんとも濃密です。